特別企画

“晴好”1周年記念 特別インタビュー

 当ホームページ“晴好”も2年目を迎え、再出発の特別ゲストとして俳優の武田鉄矢さん(56)にお話を伺いました。

 去る9月18日、福岡市東区で開催中の「第22回全国都市緑化ふくおかフェア アイランド花どんたく」ライブイベント出演前の慌ただしい時間に、快くインタビューをお受け頂きました。武田さん、お忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました。

(晴好実行委員会一同)

晴好に“贈る言葉” 武田鉄矢さん

武田鉄矢さん

 春吉という所は、僕が高校や大学時代に歩いていると、どこかツーンと戦後の匂いのする、闇の深い場所という印象がありましたね。天神、中洲には電気照明的な明るさがありますが、その間にある窪地みたいな感じ。ちょっと怪しげなおばさんが立っていたり。でも都市っていうのはそういうもんじゃないでしょうか。光と影の交錯する所というか。

 僕はね、春吉に限らずやっぱり博多の町って、ブロックブロックに住んでいる人たちが自分たちの住む通りを磨き上げていると思うんです。今朝、博多中学校のあたりを散歩していたんですけど、ふと思ったのは、ゴミがほとんど落ちていない商店街の通りを歩いていると、住民たちが自分の力で、自分の町や通りを磨き上げているという感じがすごくするんですよね。この町を離れて東京に行ってもう30年・・・。僕にはそんなふうに見えるんです。

 山笠のある通りなんて、あんな町で生まれたら東京なんて行きませんよ(笑)。去年、(「母に捧げるバラード」の舞台公演を)博多座でやっていた時、ちょうど山笠と日程が重なっていたんですけど、通りを眺めていると中高生が小学生の面倒をみたり、山笠を中心とした確固とした結束があって、祭りを持つ町の絆って強いな、本当に美しい町っていうのはこういうことなんだなって改めて感じました。

武田鉄矢さん

 最近よく、町の自然環境が壊されていって、このままでは住んでいる人間がダメになるといったことを声高に叫んで嘆く人がいますけど、胸に手をあててよく考えてみると、昔だってそんなに自然環境が良かったわけじゃないですよね。僕は雑餉隈(福岡市博多区)で生まれ育ち、板付小学校に通っていたんですけど、当時は道も舗装されてなくて、埃っぽくて汚かったですよ。近くには農業用の肥溜めもあってね。最近の日本人っていっちょ前に嘆くということをすぐやりたがりますよね。でもコミュニティのしっかりとした博多の町や通りって、昔より今はどんどん良くなっていると思うなあ。

 毎日、自分の町が見とれるほどきれいだと思うなんていうのは変なんですよ。そんな町に住んでる人は世界中どこを探したって一人もいないんですよ。ただね、時折ふっと自分の町を見て、ため息が出るほどいい町だなあと感じる瞬間ってあると思うんですよね。

武田鉄矢さん

 それは偶然なんです。いつもは汚い通りだなとかガラの悪い町だなとか思っているんですけど、ある日家に帰る時、夕日がサーッと差し込む光景がすごくきれいに見える瞬間ってあるんですよね。

 街角に昔ながらの饅頭屋が一軒ある。その饅頭なんて子供の頃から食べ飽きて見る気もしない。でも、大人になり、どこかの町に何年か住んで戻ってきて、その饅頭屋の角を曲がった時に、鼻にツーンとくるような懐かしさが突然込み上げてくる。そんな思いを抱いた時こそ、その町や通りの良さやありがたさがわかるんじゃないでしょうか。

 博多には路地の角によくお地蔵さんがあったりしますよね。そのお地蔵さんにはいつも花が枯れずに供えてある。近所の誰かが毎日欠かさず花を供えているわけです。でも子供の頃なんて、そんなこと気付きもしない。それが大人になって帰ってきて、ふと、ああ、毎日お地蔵さんに花を供えている人がいるんだなと気付いた時に、その人はそのコミュニティの次の力になっていくんですね。

武田鉄矢さん

  だから町の活性化を目指す大人たちの役割は、饅頭屋の前を散らかさないとか、お地蔵さんに花を供えるとか、そういうことをそっと日々淡々とやることではないでしょうか。大事なのは沈黙のうちに大人の仕事をするといいますかね。やはり黙っていい仕事をやることですね。コミュニティがしっかりしていて、子供に声をかける近所の人たちがいっぱいいる。そんな所は子供にとってみれば決して嬉しいことではないんです。そんなもんですよ。ところが大人になって、ある日を境に、ある光景がとても美しいとか、近所の人たちが自分にとってすごく大事だという思いが強烈に立ち上がる瞬間ってきっとあると思うんです。小さい頃は気付かないですよ。でも成長していざ気付いたならば、逆にすごく深く合点すると思います。いつか次世代を担う人たちにその瞬間の感動を味わってもらうために、大人たちは準備をするんです。

 春吉も、町の何人が、時折出くわす屋根越しに見えた満月が美しいなって感じたか、そういう思いを住民がいくつ持っているか、それが町づくりの原動力になっていくのではないでしょうか。自分の住んでいる町って美しいな、大切だなってしみじみと深く気付く体験の中から、本当の静かな力が滲み出てくるような気がします。

(取材、構成:フリーライター・西松宏 / 写真:比田勝 大直)